皆さんはフェード現象とベーパーロック現象をご存知でしょうか。車の運転中にこれらの現象が起きると、ブレーキが利かなくなり非常に危険であり、実際に死亡事故が起きた例もあります。この恐ろしい現象を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。今回の記事では、フェード現象の発生する原因や起きてしまったときの対処法などを解説します。
ブレーキが利かなくなる?フェード現象とは
ブレーキが利かない理由として、フェード現象とベーパーロック現象が挙げられます。
これらの現象が起こる原因やメカニズムについてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
フェード現象とは?
フェード現象は、ブレーキの摩擦材が発熱して起こる現象です。
とくに長い下り坂や急勾配の道路で、フットブレーキを多用することで起こりやすくなります。長時間ブレーキを使用すると、ブレーキパッドやブレーキシューが熱を持ちます。
この熱により摩擦材がガスを発生させ、そのガスが摩擦面に入り込むことで摩擦係数が低下し、ブレーキの効きが悪くなるのです。簡単にいえば、ブレーキを長時間使用することで、ブレーキの性能が一時的に低下する現象です。
ベーパーロック現象とは?
一方、ベーパーロック現象はブレーキ液(ブレーキフルード)が関係しています。
フットブレーキを多用することでブレーキ液が高温になり、沸騰することによって気泡が発生することがあります。
この気泡がブレーキライン内に入り込むと、ブレーキペダルを踏んでもその力が気泡に吸収されブレーキ液に伝わらなくなるため、ブレーキの圧力がタイヤにかからず、結果的にブレーキが利かなくなるのです。
フットブレーキとエンジンブレーキ
そもそも自動車にはおもに2つのブレーキ方法があります。
フットブレーキとエンジンブレーキです。2つのブレーキをうまく使いながら安全運転をする必要があります。
・フットブレーキ
フットブレーキは、ブレーキペダルを踏むことでタイヤの回転を制御し、車を減速させる仕組みです。
ブレーキペダルを踏み込んだ力をブレーキに伝える方法には、油圧式とエアー式、そして空気油圧複合式の3つがあります。ブレーキの構造は、ドラムブレーキとディスクブレーキの2種類です。
ドラムブレーキはブレーキシュー(制輪子)をドラムに押しつけることで、ディスクブレーキはブレーキパッドがブレーキローターを挟むことで制動力を発生させます。
・エンジンブレーキ
エンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離したときにエンジン内の抵抗が増加して減速する仕組みです。
エンジンブレーキは物理的なブレーキ部品ではないため、ブレーキランプは点灯しませんが、長時間の下り坂ではフットブレーキと併用することで車を制御できます。
フェード現象・ベーパーロック現象が起きるときは予兆がある?
フェード現象やベーパーロック現象はブレーキの利きが悪くなり、大きな事故につながる恐れがありますが、これらの現象が起きる前には予兆があります。
まず、ブレーキを踏んでも車が減速しにくい、奥まで踏み込まないとブレーキが利かないなど、ブレーキの制動力が悪くなっていると要注意です。次に、ブレーキから異臭がする場合も注意が必要です。
異臭はブレーキパッドが過熱しているサインで、フェード現象やベーパーロック現象の前兆となります。これらの予兆を感じた場合、たとえブレーキがまだ機能する状態でも、すぐに車を停車させてエンジンを冷やすことが重要です。
フェード現象・ベーパーロック現象が起きてしまったときの対処法
フェード現象やベーパーロック現象が発生したときは、あわてずエンジンブレーキを使って減速しましょう。
エンジンブレーキは、エンジンの圧縮抵抗を利用して車速を落とす方法で、ブレーキペダルを使用せずに減速できるため、ブレーキの負担を軽減できます。高速道路を走行中なら5速から4速、3速へと順に下げ、ギアを徐々に下げていき、車速をコントロールします。
このとき、急激にギアを下げるとエンジンに負担がかかるため、注意が必要です。十分にスピードが落ちたら、周囲の交通状況を確認し、安全な場所に停車します。可能であれば、平坦な場所を選び、サイドブレーキを使って車を完全に停止させます。
停車後は、ブレーキパッドを冷やすことが大切です。近くに停車スペースがあれば、そこで停車し、ブレーキが冷えるまで約60分程度待ちます。
フェード現象の場合、ブレーキが冷えると制動力が回復することがありますが、ベーパーロック現象が起きた場合は完全な回復は難しく、再発の可能性が高くなります。
ベーパーロック現象であればブレーキライン内のエアーを完全に抜く必要があるため、ただちに販売店や整備工場で点検を受けることをおすすめします。
普段のメンテナンスとルールの遵守が大切!
事故を防ぐためにも普段からブレーキの点検を定期的に行うことが重要です。
ブレーキフルード(ブレーキオイル)の定期的な交換や、日常点検時にブレーキペダルの踏みしろ、ブレーキの液量、ブレーキの利き具合、異音のチェックを行いましょう。とくに、ブレーキフルードは吸湿性が高く、時間とともに水分を吸収します。
この水分が原因で沸点が下がり、ベーパーロック現象が発生しやすくなりますが、定期的にブレーキフルードを交換することでリスクを軽減できます。さらに、バスやトラックなどの大型車両では、最大積載量を守ることが不可欠です。
過積載は車両に大きな負担をかけ、ブレーキの利きが悪くなる原因となります。最大積載量を超えないようにし、過積載時には制動力不足に注意が必要です。
また、大型車両には排気ブレーキやリターダー(補助ブレーキ)が搭載されている場合が多いので、これらを活用することでブレーキの負担を軽減することができ、フェード現象、ベーパーロック現象の予防につながります。
まとめ
フェード現象とベーパーロック現象は、どちらも長時間のフットブレーキの使用が原因で発生する現象ですが、発生メカニズムは異なります。適切な運転方法と定期的なメンテナンスを心がけることで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。とくに長い下り坂を走行する際は、エンジンブレーキを併用し、フットブレーキを過度に使用しないように注意しましょう。また大型車両の運転時には積載量を遵守し、排気ブレーキやリターダーの活用などでブレーキへの負担を軽減すると効果的でしょう。